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「遅延選択の量子消しゴム実験」の分かりやすい説明


二重スリット実験量子エンタングルメントの要素を加えた実験が存在する。

それが量子消しゴム実験(Qunatum eraser experiment)でこの実験結果は未来の情報が過去へ影響している証拠などと言われたりしている。

しかし別の科学者は「そんなことはない」と言っている。

これもシュレーディンガーの猫の話と同じように科学者の間でも意見が割れている。

ただ私が調べた限りこの現象を説明するのに時間が巻き戻る必要はなさそうである。

とはいえこれはシュレーディンガーの猫の話とは訳が違いかなり難解である。

しかし私が理解している範囲で今からこの実験のタイプで最も有名な「遅延選択の量子消しゴム実験」の概要をまずは通常の量子論を元に説明してみる。

ただその前にこの実験の状況から説明。

左上の箇所は発射されたレーザービーム(粒子)を意味している。

※粒子と書いているが観測前なので正確には波(波動関数)が正しい。

その隣には見にくいが二重スリットがある。

ここまでは通常の二重スリット実験と変わらない。

しかし次からが全く違う。

二重スリットの後ろにプリズムが設置されておりこれで双子の粒子が生成されるようになっている。

これによって量子デコヒーレンスを起こさずにどちらのスリットを粒子が通ったか判断できるようになる。

つまりかなりクレバーな方法で本当はどっちのスリットを粒子が通ったのかこっそり確認しようというのがこの実験の目的である。

粒子が通る軌道にレンズとプリズムが置いてあるがこれは軌道を補正したりするもの。

この実験の場合普通の二重スリット実験の要領では上手くいかないのでこのようなものが必要になるようである。

双子の粒子の軌道に最も近い観測機が"D0"で要するに通常の二重スリット実験のスクリーンに該当。

もう片方の粒子の軌道を測定する為に設置されている観測機が4つあり、この結果が最も重要になる。

片方の粒子がD4,D3の観測機に辿り着く前に面白い仕掛けが設置してある。

それがビームスプリッターと呼ばれるもので50%の確率鏡の役割を果たし、50%の確率でそのまま通り抜けるというもの。

これによって粒子の通る軌道がランダムになっており量子消しゴムの「遅延選択」が可能になっている。

(ただし選択と言っても人の手によるものではなくランダムによるもの)

この箇所は先ほど通り抜けた粒子をD2,D1の観測機に送る為に設置されている仕組み。

途中でビームスプリッターが用意されているので粒子が左右のどちらの軌道を通ってD2,D1の観測機に辿り着いたのか分からないようになっている。

基本的な仕組みの解説が終わったので今から実験内容の説明に移る。

※ただし簡略化バージョンの説明が先(理由は後述)

まずは片方の粒子がD4で観測されたときD0のスクリーンに辿り着いているもう片方の粒子はどうなっているのか見てみる。

粒子がD4に辿り着くには左のスリットを通る以外他に道はない。

なのでD0のスクリーンには波動関数が左側のスリットのみを通ったと考えられる位置に粒子が記録されている。

ではD3の場合どうか。

こちらも同じ要領でこの場合右のスリットを通った以外道はないのでD3で粒子が観測されればD0のスクリーンには波動関数が右側のスリットのみを通ったと考えられる位置に粒子が記録されている。

そうなんだという感じだが、これはもう既におかしな事が起きている。

なぜなら粒子は本来なら観測前は波動関数として左右のスリットを通っているはずだからである。

プリズムや観測機が置かれているのはスリットの向こう側であるにも拘わらずD4,D3に双子の粒子が辿り着いたと判明するとまるで最初から波動関数は存在してなかったかのように過去の波の性質が失われる

だが実はこの簡略化された説明は正確ではない。

ただその事は今は置いておいてこのまま続けよう。

次は途中のビームスプリッターが粒子(波)を反射しなかった場合を見てみる。(D2に辿り着いたケース)

反射しなかったので後ろに控えているD2かD1の観測機に辿り着くが、この場合D4かD3と違いどちらの道から来たのか分からないので粒子の軌道を予測するのが不可能になっている。

それが理由だからかD2かD1で粒子が観測されるとD0のスクリーンには粒子は波として両方のスクリーンを通ったと考えられる位置に粒子が記録されている。

(この場合考えられる"粒子の軌道"なるものは存在しない?)

そしてこの実験結果から宇宙の仕組みについて何が分かっただろうか。

ある人は最初にも言ったように未来(D1かD2の観測結果)が過去(D0の結果)に影響を及ぼしたと考えているが、そう断言するのは早い

なぜならその考えはシュレーディンガーの猫と全く同じで量子デコヒーレンスによる波動関数の収縮の影響が含まれていないからである。

つまりむしろ片方の波動関数(粒子)がD0のスクリーンに到達した時(量子デコヒーレンスが起きた時)にもう片方の波動関数がその結果に合わせて収縮したと考えた方が自然じゃないだろうか。

今のを図にするとこのような感じになる。

(数値や波の表現は単なるイメージです)

例えばD0のスクリーンの左側で粒子が観測されるとそれに合わせもう片方の波動関数(観測前の粒子)に影響が生じ、左のルートを通っている波動関数は濃くなり、もう片方は薄くなる。

そして波として通っても粒子として通ったかのような場所で観測される可能性はあるので両方の可能性もまだ残っている。

これなら因果律に反さずにこの実験を説明することが出来るように思える。

だがこの解釈だとおかしな事が発生する。

片方の波動関数の収縮が起きた時にもう片方もそれに合わせ波動関数の収縮が起きたわけだが、それがやけに中途半端である事。

ただそれはこの簡略化された実験の説明に問題があるということで解決する可能性があるかもしれない。

実際の実験は今説明したような分かりやすいものではなくD0の観測結果だけを見てどの軌道で来たかを判断することはできない。

D0のスクリーンはこのような状態になっている。

まずはそれをD4の軌道(左)D3の軌道(右)に分解してみる。

通常の二重スリット実験のように左右にキッチリ分かれておらずどちらから来たかよく分からない状態になっている。

(その詳しい理由を知りたい人は専門家にお尋ねください)

ではD2(軌道不明)D1(軌道不明)に分解するとどうなっているのか。

こちらはしっかり干渉縞(波模様)が形成されているが、しかしD4とD3がまんべんなくスクリーンに広がっているのでD0で粒子を観測しただけではD2かD1にもう片方が辿り着くか判断することは出来ない。

なぜならD0で観測されたそのポジションはD3の軌道かもしれないし、D4の軌道かもしれないから。

更に両者の干渉縞にも注目。

二つを重ねるとこうなる。

波同士が互いに打ち消し合って干渉縞が消滅する。(D4&D3とほぼ同じ模様になる)

なぜD2とD1の波が互いにズレているのかよく分からないが、しかしこの結果から分かることはたとえこの実験結果が本当に因果律に反しているものとしても、観測者が望みの情報を過去に送る事はできないということ。

D0の結果だけを見てもう片方の結果(ビームスプリッターを通り抜けるか反射するか)を予知する事はできないようになっている。

両者の結果を比較した時に初めてその繋がりが判明する。

つまり量子エンタングルメントの非局所性と同じでランダムな情報しか繋がりが持てない。

どういう仕組みなのか全く分からないが、宇宙がやけによく出来ているのだけは確かに思える。



ただ今の説明でも先ほどの片方の波動関数の収縮によるもう片方への影響の問題は解決していない。

というのもこの実験結果の奇妙さは波動関数の収縮の仕組みと直接関わっているのでそれが不明なのであれば結局何も解決しない。(説明が不正確であろうとその部分への影響はない)

そもそもD0の結果で片方の波動関数がどの観測機で収縮するのか判断できないのであれば尚更どうなっているのか混乱する。(だから話を分かりやすくする為に簡略化した説明からスタートした)

だが簡略化した説明と実際の結果との大きな違いはD0で粒子が観測された時にもう片方の粒子がどの観測機で観測されるか事前に判断することは出来ないだけである。

※ただしD1とD2の場合は互いに模様がズレているのでどちらの方に辿り着きやすいか予想する事は出来るかもしれない?

要するにこれはなぜもう片方の波動関数は観測機の存在をまるで事前に感知してるかのように振舞うのかが謎という事である。

この場合のエンタングルメントスピンの時(角運動量保存の法則)とワケが違い「粒子(波動関数)が通るルート」「その先に待っている観測機」「D0のスクリーンで観測された粒子の位置と連動している」というかなり複雑なものである。

つまりこの実験結果はまるで宇宙自身がこの実験の意味を理解してるかのように思える。

時間が巻き戻りするとかしないとかはそれほど重要じゃなく、この実験で最も重要なポイントは宇宙がやけに賢いという部分じゃないだろうか?

ただその事はこの実験の前から既に明らかにはなっていた。

多世界解釈に従えばたったある一つの小さなイベント(量子デコヒーレンス)の為に宇宙全体がそれに合わせて数え切れないほどの世界に一瞬一瞬ごとに分裂し続けるという想像不可能なほど壮大なものである。

宇宙が賢くなければそれはそもそも無理だろう。

コペンハーゲン解釈ではそのようなスケールの大きな事は起きないが、しかし波動関数の収縮の問題が付きまとう。

これは簡単に想像できそうだが、しかし次の次の項でもう一度取り上げるが波動関数の収縮というのは考えれば考えるほど奇妙である。

(だから宇宙全体が数え切れないほど分裂する方がまだ納得できると思う人がいるので多世界解釈は多数じゃなくとも支持されている)

感覚的には量子力学というのはこの世界で制御されているのではなく世界の裏側にある何かが裏で制御している感じを受ける。



それはともかく、ちなみにこの実験結果が伝えていることは、宇宙は波動関数を"計算上以外"で感じ取ることを強く禁止しているというものかもしれない。

おそらくその理由は矛盾を避ける為ではないか。

というのももし軌道の情報が判明しているD4,D3で干渉縞が発生したら、それはおかしな事になる。

なぜなら片方のスリットのみを通ったら干渉縞にはならない。両方のスリットを波として通りその波が互いに干渉するから干渉縞が浮かぶ。

つまり軌道が判明しているにも関わらず干渉縞が浮かべば波動関数が空間上に広がる実在する単純なエネルギー波のような存在であることになる。

しかし実際はそうじゃないのでだから軌道不明(D2,D1)の時だけ両方のスリットを通ったかのような干渉縞が浮かぶのだろう。

だから時間が巻き戻ってる(ように思える)現象が起きる。

それなら波動関数を計算上以外で感じ取ることを強く禁止している宇宙の法則(?)との矛盾が起きないから。

※だが仮にボーム解釈が正しいのであれば毎回粒子はどちらかのスリットを通っているので軌道の情報が判明した上で干渉縞が生まれても矛盾はない。

しかしどの解釈が正しくともなぜわざわざそんな複雑な仕組みが存在するのかは大きな謎である。

科学というよりは哲学として大きな謎。

ではこの実験をコペンハーゲン解釈以外の解釈で見るとどのような感じになるのか?

ただその前にこの実験の解釈で過去に情報が流れる必要がない(と思われる)理由を明確に説明していなかったのでそれを先に取り上げよう。

量子消しゴム実験がタイムトラベルと関係ない理由についてへつづく。