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二重スリット実験のよくある誤解とその実験の真の意味を解説

量子力学の実験で最も有名な二重スリット実験。

しかし世の中に出回っている二重スリット実験の解説の中には誤解を生む表現がよくある。

それによって真に不可解な部分が見逃されていたりする。

私は科学者ではないがこの実験結果の"解釈"については普通の人よりも詳しい自信があるので今からこの実験が持つ本当の意味を説明してみる。



■光子や電子などの粒子は"二つ"に分裂しない

有名なドクター・クアンタムの二重スリット実験の解説(YouTube)があるが、あれは実際の実験をあまりにも分かりやすく説明しすぎていて色々と誤解を生みかねない。

少なくとも、二つ限定ではないのは確かである。

他にもこの図のように観測されるまで一つの粒子は様々な場所に同時に存在する事ができるなどと言われたりもしているが、その考えは「エヴェレットの多世界解釈」であってそれは観測前の粒子ではなく観測後の粒子と関係している。

確かに重ね合わせ(スーパーポジション)と呼ばれる特殊な状態は存在するが、しかしそれは粒子として分裂しているのを意味しているわけではないのでそう単純に考えられるわけじゃない。

観測前の粒子の性質に関する的確な説明はであるがそれに触れる前にもう一つの重要な誤解も解いておこう。

■量子力学の「観測」は「人の意識」を意味している

解説の中では「観測」の表現は"目"が使われているが実際には観測したい粒子を例えば別の粒子と相互作用させるなどして場所を特定させている。

そのような作用は量子デコヒーレンスと呼ばれている。

(イメージ図)

つまり実際の実験では人が粒子を直接目で見ていないだけではなくその実験データを人が見ようと見まいとその効果によって二重スリット実験は成立するようである。

量子力学に宇宙の不思議さを求めている人にとってはガッカリするような話に聞こえるだろうが、落ち込むのはまだ早い。

というのも事の真相はそう単純じゃなくこの観測問題というのは非常に難解な問題で現在のところ「観測」の厳密な定義はハッキリしていない。

上の図はあくまで量子デコヒーレンスを分かりやすく表現しているだけであって観測の真実の姿ではない。

この先説明する波動関数の収縮も考慮すると観測問題の話は複雑さを極める。

しかしそれらの事を考慮したとしても観測=意識によるものと単純に考えるのは間違ってると思った方がいいだろう。

ただし、量子デコヒーレンスの概念を考慮しても意識と量子力学に関連性を求めることは不可能ではない。(第三章から説明している)

というのが量子力学の話を中途半端に知った時に持つよくある誤解。

他にもあるがこの二つを押さえるだけでもまずは充分かもしれない。

・観測されていない時の粒子は"粒子として"分裂しているわけではない

・観測の定義を意識と"直結"させることはできない(量子デコヒーレンスを考慮する必要がある)



では次はこの実験の持つ本当の意味に話を移そう。

それは、2017年現在誰も分かっていない

拍子抜けのように思えるだろうがこれは非常に重要な事である。

なぜパラレルワールド説(エヴェレットの多世界解釈)のような一見あり得なさそうに思える解釈が普通に科学者の間で支持されていたりするのか、それはこの量子力学というのが実際のところ何を意味しているのか未だに不明であるから。

だから量子力学には様々な解釈が存在しており意見が割れる。

しかし一般的に支持されている解釈は存在している。

それがコペンハーゲン解釈と呼ばれるものでそれに従うと量子力学が伝える宇宙というのは確率の世界(確率論)だというもの。

ただしそれに対抗する理論も存在している。

先ほど挙げたエヴェレットの多世界解釈もそうだし他にも「ボーム解釈」(パイロット波理論)と呼ばれる理論が存在し二重スリット実験のような不可解な実験結果を決定論的に解釈しようとするものである。

二つとも詳細は個別に取り上げているがここで簡単に説明するとエヴェレットの多世界解釈は先ほども言ったように並行世界説

そしてボーム解釈は少し変わっている。

"粒子は粒子"として確かに存在し"波は波"(ガイド波)として別に存在している。

そして粒子がガイド波に乗って動くから二重スリット実験で波のような模様を作る。

というむしろ一見普通に聞こえる考えだが量子力学の概念としては普通じゃない。

実際これはボーム力学(Bohmian mechanics)とも呼ばれている。

つまりこの理論が正しい場合「量子力学」は本当は量子力学ではない(実際は「ボーム力学」であった)という事になるのだろうか?

その理論がどのようなイメージか映像で知りたい人はこの解説をご覧ください。

Pilot Wave Theory and Quantum Realism(YouTube) ※4分30秒からスタート

日常の直感に沿っているだけあってYouTubeのコメント欄などを見るとボーム解釈の支持者は多い

のだが実際の科学者の間ではほとんど支持されていない

その理由は相対性理論との相性の悪さらしいのだがその事はここでは一旦無視。

というわけで話をまとめるとこうなる。

・量子力学の真の意味を知っている者は現在地球上に存在しない(ように思われる)

・しかし"決定論的な宇宙論は間違っている"という見解が科学者の間では強い

基本は押さえたので今からいよいよこの実験の本当は何が不可解なのかを説明してみる。



■粒子は本当は粒子じゃない?

粒子を普通にイメージすると単なる小さな"物"という感じだが、ボーム解釈でも正しくない限りその考えは間違っていることになる。

確かに観測すれば粒子は粒子なのだが観測されていない時は粒子は粒子じゃないらしい。

だったら粒子は本当は何なんだという感じだが、まさにそれである

しかし科学者に聞いても「分からない」としか答えない。

※ただし最近有力視されている仮説はある(後述)

観測されていない時は粒子は波(波動関数)として振舞っているなどと考えられているが具体的な事は判明していない。

という事は、粒子は本当は粒子じゃなくなのだろうか。

それで簡単に結論が出そうだが、しかしこれはそう単純ではなくこの波動関数は普通にイメージできるような波ではない。

この波の持つ奇妙な特徴を把握した時にこそ量子力学の本当の奇妙さが分かる。

そしてそれが量子力学に様々な解釈が存在する理由である。

■「波動関数の収縮」の謎

波だと思って観測を行うと、どういうわけか波の性質が消えて粒子として存在している

粒子が物として存在するのは当たり前のような感じだがしかしだとしたら"波の性質"は何だったんだと話が戻ってしまう。

しかもこの波はエネルギー波のような単純なものではなく"確率"を意味し、(別名確率波とも呼ばれている)

観測が行われると粒子が発見された場所以外で波が到達していたはずの場所からはその波だった痕跡を見つけることができない。

これが波動関数の収縮と呼ばれているものでその仕組みは完全に不明である。(本当に現象といえるかすら判明していない)

そしてこれに関する"姿勢の違い"こそが様々な量子力学の解釈が存在している理由でもある。

たとえば主流であるコペンハーゲン解釈ではこの現象は存在するにも拘わらず原理に関しては丸投げされており説明自体が存在しない。

(実際コペンハーゲン解釈は解釈ではないという意見があったりする)

しかしエヴェレットの多世界解釈はこの現象と向き合っており、だが面白い事に向き合うことによって逆に波動関数の収縮自体が存在しないという事になっている。

そして科学者からは人気のないボーム解釈の場合はそもそも粒子は粒子、波は波なので多世界解釈とは違う意味で波動関数の収縮は存在していない。

(波動関数の収縮に関する詳しいことは第三章から説明している)

■まとめ

・観測が行われていない時、粒子は粒子として分裂しているわけではない

・量子デコヒーレンスを考慮せずに観測は意識によって起こされていると単純に考えるのは間違い

・しかしその観測にまつわる問題はかなり難解で答えは現在のところ不明(量子力学の解釈が複数ある理由)

・量子の"振る舞い"は数学的に理解されているがその"実態"(メカニズムや正体)は謎に包まれている

ここで色々と疑問が浮かぶ。

一般的な量子力学の解釈が正しい場合、粒子は粒子じゃなく波だったりもするがしかしその量子は単純なエネルギー波というわけでもない。

だがマクロの世界(日常生活)で見る「物」も突き詰めて考えればミクロの集合体で出来ている。

つまりミクロの世界(量子力学)の謎をマクロの世界(日常)とは無関係と完全に切り離して考える事は出来ない。

という事は、物の本質とは一体何なのか?

それについては次の二重スリット実験から見える「物」の本質とはへつづく。