宇宙の謎を哲学的に深く考察しているサイト

メアリーの部屋
(スーパー科学者メアリー)


この思考実験は1982年にフランク・ジャクソンという哲学者が考案したもので、中々面白いアイディアである。

ではまずは実験の概要から。

(Wikipediaからそのまま引用)

唯物論(マテリアリズム)が偽であるかどうかはこのサイトで散々指摘しているのでそれについてはここでは置いておく。(とは言ったがやはり後で少し触れる)

メアリーが白黒の部屋から出て、本物の色を見た時に何か学ぶかどうかだが、これについては3パターンの解決法があると見ている。

まずは1番目から説明しよう。

1.文字などによる知識(学習)では永遠にクオリアとしての色の知識は得ることができない

全色盲の視覚科学者、色盲の画家、視覚を取り戻した男性など様々な例が存在するが、色が何なのか理解する事が出来なかったという意見で占めている。(Wikipedia参照)

なのでこれは充分に考えられる。

だがそれは学習方法に問題があったので色を知ることが出来なかったという可能性を完全に消すことができない。

忘れてはならないが思考実験のメアリーは、スーパー科学者である。

現在のレベルとは比べ物にならないほどの科学力をメアリーは持っている。

それを利用したテクノロジー知識によって白黒の世界にいても色を知ることが出来るかもしれない。

そこで次の可能性が浮かぶ。

2.シミュレーションによる色の学習

メアリーの持つ知識は、宇宙を数式で表現できるほど優れている

なので例えば"赤"を見た時に脳がどのような反応をするのか数学的に把握している。

(イメージ図)

しかしそれは数学の仕組み(パターン)を知っているだけで色を知っていることにはならない。

(なのでもうこの時点で唯物論は偽であると言える気がするが、それを超えた話をここから考えていく)

だがメアリーの知識は数学だけに特化しているわけじゃない。

その刺激を再現できるコンピュータを作れる技術力もある。

なのでメアリーは"色を見た時の刺激"を自らの脳に起こせるコンピュータを作り、そして"それ"を体験した。

(イメージ図)

その後、外に出て色について何か新しいことを学ぶだろうか?

少なくとも感覚としての色について学ぶこと何もないだろう。

なぜなら、もう既に色がどのようなものかを知っているからである。

以上のことから白黒の部屋にいても"あるレベル以上の知識"を持っていれば色を感覚として知ることは可能だと考えることが出来る。

というわけでこれが私の考えるメアリーの部屋の結論だが、話はここからである。補足の部分が最も大事。

今の話だと「それじゃ色を見たのと変わらないじゃん」という感じに思える。

そう言えるかもしれないが、しかしそれは白黒の部屋の中で色を見たと単純に言うことはできない。

なぜならメアリーが作ったコンピュータは白黒で出来ているからである。

さらにモニターか何かで現実世界に色を映し出したわけでもなく、メアリーの脳に直接色を見た時に該当する刺激を与えただけである。ルール違反には当たらない。

なのでコンピュータの中をどれだけ探しても色を見つけることはできない

部屋の中に現実の色は一瞬たりとも存在していない。

メアリーの"意識経験"の中にのみシミュレーションの色は存在している。(なのでそれは現実の色とも違う)

しかも、メアリーに意識経験が存在するとなぜ他の人が言い切れる?どうやって確かめる?

メアリーも含め、全て数学で記述可能なのであれば傍から見るとメアリーが既に色について学んだかのような行動を取っただけの可能性を消すことはできない。

(この部分は中国語の部屋と関連している)

今の話が意味するものは宇宙はコンピュータで出来ているというシミュレーション仮説だけじゃなく、そこからの派生形である水槽の脳シミュレーション仮説の可能性であるが、それについては個別に分析しているのでそちらをご覧ください。

参照:デジタル物理学の哲学(基本編)

※話がややこしくなるのでここからはメアリーに意識経験が存在する前提で話を進めて行く



ちなみにメアリーは外に出て色が何なのかという事は学ばないだろうが、しかし別のことは必ず学ぶ

それは"シミュレーション"と"現実"がどれだけの精度で一致しているか

メアリーは"色の刺激"をコンピュータで再現し体験したが、それが本当に本物の色と変わらないかは外に出て確かめるまで分からない。

確かにメアリーは宇宙を数学的に説明できるほどの知識の持ち主だが、宇宙の外の状況は何も把握していない。

これは簡単いうと「神」じゃない限り真の意味で現実の特性は完璧に把握できないというもの。

つまりメアリーが神レベルの知識を持っているという前提は不可能な前提であると考えるべきである。(Wikipediaの項目に少しメアリーが神レベルだったらという条件が書かれてある)

そもそも神レベルまで仮定せずともシミュレーションによる現実の仮想体験が可能なレベル程度で充分この問題は考えることができる。

よって色がどのようなものか白黒の世界にいても学ぶことはできるが、しかし色と関連した情報は必ず何か学ぶと思われる。

つまりシミュレーションによって全てを学んだと思っても、そこから更に何かを学ぶことは可能という事になる。

途中からシミュレーション仮説の話になったが、それはこの思考実験が科学力と直接関わっているからである。

なのでシミュレーションの概念なしで考える方がむしろ不自然といえる。

ただここであえてシミュレーションによる体験抜きで色を知ることが出来るのか考えてみる。

それが3番目のケースである。

3."他の感覚"で色の感覚を知ることは可能か?

メアリーは赤を見た時に自らの脳が数学的に"5637849-00006"という状態になることを知っている。

では、色の刺激をシミュレーションで再現せずに、他の感覚の知識で脳をその状態にする事は可能だろうか?

つまり味覚などの他の感覚で色を"想像"(創造)する事が可能かどうかということである。

おそらく、無理だと思える。

そう思う理由は色の知識が元々あれば青は"寒い"赤は"熱い"などのように他の感覚と結びつけて表現できるが、色の感覚(コンセプト)としての知識が存在しないのであればそのような連想をすることは無理だと思うからである。

実際以前盲目の人に色を言葉で説明してみる動画を見たことがあるのだが、全く理解不能だと言っていた。

なのでたとえメアリーがスーパー科学者でも、"5637849-00006"の反応はそのクオリアを知った時に起きるものなので、シミュレーションによる仮想体験抜きでは白黒の世界の中で色を知ることは不可能だろうと思える。

ただしある特定の色だけ知らないという場合であれば他の色の知識でそれを想像することは可能かもしれない。この場合色のコンセプトは知っているので状況が違う。

ちなみにその場合こそ"シミュレーション(想像)"と"現実"がどれだけの精度で一致しているかを外に出た時ハッキリ学ぶことになる。

いやちょっと待った。

これは実際は可能かもしれない。

しかし可能だとしても結局"5637849-00006"の反応が起きた時、メアリーの意識経験の中には色が存在している(と思われる)ので、これは先ほどのシミュレーションによる学習と変わらないと言える。

そこに行き着く過程が違うだけなので、今の話はメアリーの脳がどれだけ優れているかという問題になる。

(不可能だと思った理由はメアリーの脳のレベルが人間の脳のレベルであると勝手に仮定したから)

つまり"あるレベル以上の脳"であれば、外部のコンピュータ無しで現在知らないコンセプトを想像する事は可能といえるだろう。

なぜならその脳がシミュレーションの仮想体験を自力で起こせるほど優れているから。

というわけで結局これもシミュレーションの話と繋がったが、しかしこれは超高性能の脳による想像力の話なので2番目とは少し意味合いが異なる。

こっちの方がもっとシミュレーション仮説の"終点"に近い。

というわけでメアリーの部屋の思考実験を考えてみたが、シミュレーション仮説を超えたこともこの実験から浮かんでくる。

ただそれについてはデジタル物理学の哲学の応用編のクオリアはどこから来たのか(神は存在するのか?)をご覧ください。

哲学の話は次の第五章へとつづく。


■第五章

哲学的ゾンビについて