宇宙の謎を哲学的に深く考察しているサイト

シミュレーション仮説に潜む問題点


■前回

ブライアン・ウィットウォースの挙げるこの宇宙がコンピュータシミュレーションである11の理由

前回量子力学とシミュレーション仮説を単純に結びつけて考えることはできないと言ったが、その理由をここで説明しよう。

まず第一に"古典的なコンピュータ"で量子力学の性質を完璧に再現できると証明された理論は存在していないというのがある。

前回「計算不可能な部分があればシミュレーション仮説は間違いともいえる」と言ったが、これはまさに量子力学が当てはまる可能性がある。

例えば波動関数の収縮

このメカニズムをもし古典的なコンピュータで完璧に再現可能なのであれば確かに量子力学とシミュレーション仮説を直接で結びつけて考えることはできる。

しかし、それは果たして可能なのか?

というのも重ね合わせを完璧に再現するとなればコンピュータ処理が追い付かないように思える。

部分的には可能でもスケールが大きくなればなるほど処理の負担がかかりおそらく無理である。

つまり古典的なコンピュータによる宇宙の再現の可能性はないのではないか。

(本当は量子力学の世界を完璧に再現できなくてもないと言い切れないのだがそれは別の頁で説明)

つまりブライアン・ウィットウォースの挙げた量子力学に関する部分はシミュレーション仮説の説得力を上げる要因にはならないわけである。

しかし今の話でシミュレーション仮説が間違いということにはならない。

なぜなら先ほど消去した可能性は古典的なコンピュータで宇宙が"完璧な形"で再現されている説であって量子コンピュータが関与しているシミュレーション仮説はまだ考慮していないからである。

量子コンピュータを簡単に説明すると重ね合わせ(波)の原理を利用して通常のコンピュータだと時間が掛かる計算をあっという間に終わらせることができる次世代のコンピュータである。(詳細は各自お調べください)

だがこのコンピュータの持つ力は単に暗号解読に利用できるというものだけじゃない。

宇宙の再現に利用可能という部分が哲学的に見ると非常に大きい。

ただし量子コンピュータは暗号解読のような特殊な計算を行う場合にのみ力を発揮するものであって単純に古典的なコンピュータの上位バージョンというわけではない。

つまり量子コンピュータが完成しても早速それで宇宙を再現できるという事にはならない。その為には今まで通り古典的なコンピュータの性能向上も必要不可欠。

だが量子力学の世界を古典的なコンピュータで再現しようとするのはたとえそれがどれだけ高性能なスーパーコンピュータでも非常に大変であるが、しかし量子コンピュータであれば量子力学の原理をそのまま利用しているので無理がない。

つまり量子コンピュータがミクロの世界の再現を担当し、古典的なコンピュータがマクロの世界の再現を担当すれば、シミュレーション宇宙の再現は理論上不可能じゃないとなる。

しかも今の話はシュレーディンガーの猫が存在しない理由の直接的な説明になる。これはこの仮説の持つ大きな強みといえる。

つまり現実の構成は古典的なコンピュータと量子コンピュータの仕組みの違う二つに分かれているから、だからミクロの世界の奇妙な現象をマクロの世界で目撃することがないと説明できるわけである。

更に量子デコヒーレンスの本当の意味はその二つのコンピュータを繋ぐ役割という事にもなる。



しかしだからと言ってシミュレーション仮説が正しいともならない。これはそんな単純な話ではない。

たとえば量子力学が一体何を意味しているのか分からなくても量子コンピュータを動かす事は可能というのがある。

コペンハーゲン解釈が正しいのか、多世界解釈が正しいのか、ボーム解釈が正しいのか、それとも意識解釈が正しいのか、分からなくても量子コンピュータを作ることは出来る。

シミュレーション仮説が正しい場合多世界解釈は間違いになる気がするが、しかし量子の世界を古典的なコンピュータではなく量子コンピュータで再現している場合1つの世界として宇宙が完結している意味にはならない。

(古典的なコンピュータも含めて宇宙全体が量子コンピュータの結果に合わせて分裂していると解釈できるから)

つまりシミュレーション仮説が本当に正しいとしても、量子力学が何を意味しているのかシミュレーションを実行している"層"ですら分からないわけである。

さらにこれは無限後退という避けては通れない問題が出てくる。

無限後退とは簡単にいうと終わりがない無限に続く同じ形の説明である。

そしてWikipediaを参照にすると「一般に説明や正当化が無限後退に陥った場合、その説明や正当化の方法は失敗したものと見なされる」ので、

この問題をどうにかして解決しなければシミュレーション仮説は間違い……とは言えなくとも世界五分前仮説(Wikipedia)のような昔からある思考実験と同レベルの話として終わりかねない。

つまり、単純にこの宇宙がコンピュータで出来ていると考えるとこの宇宙を作っている宇宙もまた同じようにコンピュータで出来ていると考えることが出来てしまう。

要するにこのモデルのシミュレーション仮説だと宇宙の謎の答えにはならない

更に意識の問題も出てくる。

たとえばシミュレーション宇宙内で再現された生物は本当に意識を持っているのだろうか?

このタイプの仮説だと持ってなければおかしい

もし持っていないのであればシミュレーションが永遠に続く以上誰も持っていないとなってしまう。

そうなると「情報処理」が意識を持つ条件ということになるが、それは単なる憶測であってそれだと脳が意識を作っているという誰もが思いつく予想と何も変わらない。言い方が変わっただけでポイントは同じ。

つまり宇宙を再現できる力があるのに意識の問題は何一つ進展しないわけである。

他にも問題はあり、永遠に続くシミュレーションとなれば上の層に行けば行くほどコンピュータへの負担が大きくなるはず。

つまり、永遠に続くのは単純に不可能じゃないのだろうか?

少なくともこの説では古典的なコンピュータがシミュレーションに使われていると仮定しているのでこの問題は避けて通れないように思える。

そして最後の問題。

先ほど無理じゃないかと言ったがそれでも永遠のシミュレーションがどうにかして成立すると仮定しよう。

だがもしその無限に続く層のたったどれか一つのコンピュータが故障すれば、その下に存在する全てのシミュレーション宇宙は崩壊してしまうのではないか?

つまりこの仮説だと今こうやって現実が続いている理由の辻褄が確率的に取れないように思える。

というわけで量子コンピュータ+古典的なコンピュータによる永遠につづくシミュレーション仮説は間違っているとこのサイトでは結論を出します。

だが話はこれで終わりじゃない。

というのもシミュレーション仮説というのは他にも様々なパターンが存在している。

その内の一つのモデルを否定したに過ぎないのでこの話はここからが本番である。

それに永遠じゃないのであれば量子コンピュータ+古典的なコンピュータによる宇宙の再現不可能なアイディアではない

更に古典的なコンピュータのみを使ったシミュレーションの可能性も無視できない。

それらの可能性が一体何を意味するのか、それは次の第二章へつづく。

■第二章

シミュレーション仮説が意味する現実の正体とは