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量子力学の「観測問題」について


■以前の分析

遅延選択の量子消しゴム実験の分かりやすい説明

遅延選択の量子消しゴム実験がタイムトラベルと関係ない理由について

遅延選択の量子消しゴム実験の話もいよいよ佳境であるがここで話を基本である二重スリット実験まで戻す。

その中で量子デコヒーレンスを取り上げたが、なぜこれ単独だとコペンハーゲン解釈の場合観測問題が解決しないのかこの実験を使って説明してみる。

波動関数が収縮する原因が単純に波動が量子デコヒーレンスを引き起こせる存在と"接触"(相互作用)した時に起きるとするとおかしな事が起きる。

というのも本当にそれが正しいなら、なぜ毎回D4で波動関数が収縮しない?

二重スリットから最も近い距離にある観測機はD4。

波動関数は辺り一面に広まっているはずなので単純に考えると量子デコヒーレンスによって最も近い観測機のD4で毎回収縮するように思える。

しかし実際はそうはならない。

つまりコペンハーゲン解釈が正しいならその時々によってその場所で量子デコヒーレンスが起きたり起きなかったりする事になる。

波がそこに到達しているにも関わらず。

波動関数はコペンハーゲン解釈によると本物の存在じゃないので本物の存在である観測機と接触しなくても矛盾はしないのだろうが、しかし何がその相互作用する確率を決めているのかという問題が残り続ける。

だが多世界解釈だとこの問題はかなり簡明に解決できる。

なぜなら実際に波動が観測に該当するイベントに到達するとその地点では毎回粒子が観測されるからである。

しかしほとんどは別の次元での出来事なので一つの結果しか見る事のできない"我々"にとってはD4で量子デコヒーレンスが起きなかったように見えるだけという事で説明できる。

要するにコペンハーゲン解釈と比べた多世界解釈の最大の利点は量子デコヒーレンスが絶対的な効果であることと言えるかもしれない。

コペンハーゲン解釈だとその時々である地点では量子デコヒーレンスが起きたり起きなかったり中途半端だが、多世界解釈だと毎回必ず起きるので観測問題が存在していない。

では多世界解釈を元に遅延選択の量子消しゴム実験を見てみる。

(正確にはD0の結果は無数に存在しているが分かりやすく一つのD0の結果のみに絞って進めて行く)

この地点まではコペンハーゲン解釈と同じ。

そして波動関数がD4と相互作用をすると、

D4の世界は独立しそこにはもう波動関数は存在しない。(その宇宙では波動関数の収縮が起きたように見える)

しかし宇宙的な波動関数は収縮しないのでまだ突き進む。(D4の世界から見ると別次元の出来事)

そして次にD3の世界が分裂。

そして最終的にD2とD1に分かれる。

まるでSFのような展開だったが、しかし波動関数はその場の環境に合わせて機能するにも拘わらずコペンハーゲン解釈だと現実には存在していないという普通に考えたら意味不明なものなので日常の感覚からかけ離れているのはどちらも大して変わらない。

まるでこれは幽霊を信じるかそれともUFOを信じるかという感じである。

ちなみに量子デコヒーレンスが起きる具体的な条件についての観測問題は多世界解釈でも解決していない。

つまり「観測問題」は二種類の意味がある。

・量子デコヒーレンスが起きる条件

・量子デコヒーレンスが起きる条件が整っているにも関わらず起きない理由(コペンハーゲン解釈のような解釈が持つ特有の問題)

一つ目の方はミクロの世界の情報がマクロの世界の情報へ移った時に起きるなどと本当に正しいかどうかはともかく推測することはできる。

いずれ実験スーパーコンピュータの分析などによって明らかになる日が来るかもしれない。

しかし二つ目の方は推測すら困難。

だからコペンハーゲン解釈自体が間違っていると考えたり最終的な決定は意識が引き起こしているという意見があったりするわけである。

そこに隙間がある以上どうとでも考えることができる。

シュレーディンガーの猫(意識解釈)はこの事を考慮するとおかしな話じゃない。

コペンハーゲン解釈では量子デコヒーレンスの効果は中途半端なのでそこに考える余地がある。

なので量子デコヒーレンスを持ち出せば意識解釈が崩れるという考えは間違っている。

これは科学界に広がっている誤解の一つだろう。

(誤解ではなく意図したものの可能性もあるが)

いや、全く間違ってないわけじゃない。

ただそれで崩れるのは最初に紹介した誤解による意識解釈のみである。

ソリプシズム的な意識解釈の方は受け付けにくいだけである。



しかしこのサイトでは多世界解釈も意識解釈も量子力学の真理としては間違っているのではないかと哲学的な視点から結論を出している。

という事は量子デコヒーレンスの効果はその時々で起きたり起きなかったりするのを認めランダムが全てを支配しているという「解釈」としての意味がほとんど存在していないコペンハーゲン解釈を受け入れるべきなのだろうか。

シミュレーション仮説と繋げて考えた場合だと個人的には別にいいと思うのだが、(シミュレーション仮説の話を抜きにするとこの解釈を支持する気にはならない)

しかしまだ他にも選択肢は存在している。

ではここでボーム解釈を取り上げる。

二重スリット実験の説明の中でも少し触れたように粒子は粒子として存在し、波はガイド波として別に存在している。(ガイド波が波動関数の役割を持っている)

なのでこの理論が正しいなら量子消しゴム実験の説明は簡単に済む。

というのも粒子は毎回必ず右か左かどちらかの軌道を通っているで話が終わるから。

ただし、なぜこんな複雑な仕組みで動いているのかという部分は今までと同じく大きな謎である。

例えばD2かD1だと軌道不明であるがボーム解釈だと実際にどちらかの軌道を粒子が通っている。

しかし左右どちらかのスリットを粒子として通っているにも拘わらずなぜこちら側から見て軌道不明の時だけ量子力学的な軌道を通るのかという具合に言い方が変わっただけで問題は何も解決していない。

むしろ奇妙さが増した気もする

実際このガイド波もやはり単純にイメージできる波ではない。

粒子がそれにただ乗って動くだけの役割を持った単純な波であれば局所的な隠れた変数理論という事になりベルの不等式で引っ掛かる。

なのでこの理論は決定論であるにも関わらずコペンハーゲン解釈のように量子エンタングルメントの非局所性が求められる。

遠くにあるガイド波が繋がりを持っている別のところにあるガイド波に即座に影響を与えるという感じでこれも言い方が変わっただけで問題の本質は同じ。

コペンハーゲン解釈が幽霊、エヴェレットの多世界解釈がUFOならボーム解釈は超能力という感じである。(ちなみに意識解釈は臨死体験といったところか)

だがボーム解釈だと波動関数の収縮(観測問題)が存在しなのでそれは利点として非常に大きい。

しかも多世界解釈と違い複数の世界は必要なく一つの宇宙で説明できるのでそれも評価ポイントだろう。

更にソリプシズムを求められないので意識解釈より受け付けやすい。

こうやって見たらボーム解釈は中々面白い仮説だと思うのだがしかしこの理論には致命的な問題がある。(らしい)

それは相対性理論との相性の悪さ

物理学者じゃないのでよく分からないがこの部分はかなり厄介らしくこれが理由でこの理論は間違いだと思われている。

ただし現在の物理学の流れに沿ってないだけでは間違いとはならない。

相性が悪く見えるだけで実際は正しいかもしれない。

ちなみに話はちょっと変わるがEMドライブが動く理由にパイロット波(ボーム解釈)が原因だという説がある。

ほとんどの科学者は(2017年5月)現在でもEMドライブはエラーの産物で実際に動作するとは思ってないようだが、しかしもしこれが本当に現在の物理学の"常識"に反しているのであればそういう意味でも個人的にはこれがぜひ本物であってほしいと願っている。

というわけで遅延選択の量子消しゴムの実験の説明はこれで終わったが結局どの理論が正しいのかという部分とは結びつかなかった。

だが宇宙がやけに賢いというのだけはこの実験から理解できたかもしれない。

※ちなみに宇宙が賢いのではなくこの実験を用意した人間がシステムを理解しているからこのような事が起きると解釈した意識解釈も存在している。意識解釈にも色々とバリエーションがある。

では量子力学の話の最後の締めとして次はトンネル効果不確定性について取り上げる。

第五章へつづく。


■第五章

トンネル効果と不確定性について